日本共産党 上越市議会議員 ひららぎ哲也のウェブサイトへようこそ

日本の農業の未来へ

2020年10月16日 14:36

安倍農政の検証報告書
野党共同会派が今年3月に設置した「安倍農政検証ワーキングチーム」が、先月報告書「新たな農政思想への転換」を出しました。
森ゆうこ参院議員事務所からその資料を頂きましたので、興味深く読みました。

このワーキングチーム(以下WT)は、「食料自給率は38%と低迷する中、若年就農者そして農業人口はいよいよ激減し、地方の過疎化・少子高齢化が深刻化している。農地は荒廃し、気候変動と相まって集中豪雨のたびに水害や土砂災害による被害が拡大しており、農政の総合的・抜本的改革は急務である。」という点を問題意識として、これまでの安倍政権の農政を検証しています。

こうした思いはまったく共感できるもので、それに対する提言も随所に「なるほど」とひざを叩ける点がありましたので、紹介します。


輸出頼みを一刀両断
まず、農産物の輸出で農業振興を図ろうとしている安倍政権のやり方に関しては、「農産物・水産物の輸出額の品目別内訳をみると、加工品(加工食品・水産調製品・穀粉調製品等)が約50%を占める。輸出加工品の原材料の産地データはないが、国内で生産される加工食品全体の統計から類推すると、金額ベースで原材料の33.7%が輸入品であり、調味料や麺類等の原材料である小麦粉や大豆の大部分も輸入品であることから、輸出加工品の原材料には輸入品も多く、圏内農業生産への輸出の寄与度はさほど高くないと考えられる。」と指摘しています。
輸出額自体も農業生産のごくわずかであることは私も指摘してきましたが、それどころではありません。上のことからは、単に輸入した農産物を加工して輸出しているだけという、日本の農業にはなんの意味も無いことを促進していることがわかり、まったくもって安倍農政の無策ぶりにあきれ果ててしまいました。

野坂昭如の言葉
「どう変えていくか:新たな農政思想への転換」の章では、冒頭に野坂昭如氏の述懐を引用しています。「ぼくは、極端なことをいうようだが、農産物の国際競争力を培う、即ち、自然と拮抗して、農業を営むよりも、日本の特別に恵まれた事情はあるにしろ、太陽と水をなによりのたよりとし、自然にできるだけ逆らわぬ、なごやかな農法を、外国に輸出するべきだろうと思う。」というものです。こうありたいものです。

具体的な提言がたくさん
中身では、いくつか具体的な方向性を指し示しています。

  • 農村の集落共同体から始まった我が国の農業の歴史を肯定した上で、現実的な政策を直視した政策決定の場を設定し直し、小規模・家族農家の立場の意見を政策に取り入れるべきである。
  • 労働集約的な小規模・家族農業を振興することは、地方の雇用はもちろん、国土保全・防災、環境・生物多様性の保護、文化の伝承など多様な効果が生まれるものであり、まさに地方創生の中核とすべき政策である。すなわち、地方創生を進めるには、「お百姓農業」(アグロエコロジー)と言うべき農村地域に欠かせない多様なカを持つ農業を振興すべきである。
  • 第一次産業に関連する地域資源を活用した再生可能エネルギーの普及を通じた地方分散型社会づくり、地域コミュニティの活性化策も促進すべきである。
  • 我が国の第一次産業(水産業・林業含む)の価値や、国家の存立基盤たる国土の保全の重要性、さらに国民の生存と健康を保障する安定的な食料供給や食の安心安全を一体とした「国土と食の安全保障Jの重要性は、国民が広く共有すべき基本認識と位置づけ、国の責務としてその理解の浸透と定着を図る必要がある。
  • 小規模・家族農業を「食と農の守り人」(門番)と位置づけ、その考え方を食料・農業・農村基本法に反映させることが考えられる。
  • この深刻な課題に立ち向かうには、現行の小規模・高齢農家の離農促進による農業構造改革路線を終結させ、人材確保制度を更に強化し、新規参入者を大幅に増加させるためあらゆる手段を講ずるべきである。
  • 例えば、各県の農業大学校の学生は、卒業後、就l聾すれば授業料返還する仕組みのほか、青年就農給付金や収入保険、農業共済などを活用して所得安定に万全を期すべきである。
  • 新規就農の新しい姿として、コロナ禍におけるリモートワークの推進を契機として、都市住民が「田園回帰」して地方の広い住宅で暮らし、テレワークで企業勤務を続けるかたわら、農業を営む新たな兼業農家スタイル(いわゆる「半農半X」)等の多様なライフスタイノレを担い手のー形態として促進し、十分な支援を行うことも考えられる。
  • 就農志望者が、やりがいと安定性を両立させ、農業を現実的な職業として選ぶことができるよう、「国立農業公社」(仮称)を創設し、一括採用・研修・育成し、農業人材としてのキャリアパスを実現する仕組みを検討すべきである。
  • スイスのような農業の条件不利が日本と似通っている国では、数年前の抜本的な制度再編により、具体的な多面的機能への対価という観点からきめ細かな制度を展開しているとされ、日本も、限られた土地を永続的に使い続ける観点から、欧州各国の制度を参考に、直接支払制度を抜本的に再検討し、「多面的機能Jを重視した農村地域政策を実施すべきである。
  • 「農業の力」を示す新たな指標として、農業生産に伴う土壌炭素固定や温室効果ガス抑制を勘案した新しい指標「資源・エネルギー生産性」を考案すべきである。
  • 食料輸送に伴うC02排出による地球環境への負荷を認識するため、食料の輸送量と輸送距離を定量的に把握する「フードマイレージ」指標を普及させるべきである。
  • 農協は、支所や直売所を「モンキーポッド」(木陰に人が集まる木)とし、農業を通じた地域住民のふれあいの場づくりを進めるなど、農業を単なる経済活動とみなさず、組合員や一般市民から理解を得ながら、地域振興への大きな役割を果たすべきである。
  • 自国の食料自給の能力を維持・向上させるには、農業者が消費者噌好に合わせて食料供給し続けるのは限界があり、消費者に先人が作り上げてきた日本型食生活と農業を永続させるため、できるだけ国産農作物で賄うよう啓発普及を行うのが本来の姿と考えるべきである。


ちょっと感想
この最後の視点は、これまで私の頭の中に無かった視点です。なるほど、日本の国土にあわせた作物を中心とした食生活の啓発で、国産農産物の消費拡大を図るというのもありですね。
そのほかにも、「国立農業公社」はおもしろい。こうしたシステムがあれば、人生を博打にかけなくても農業に挑戦できます。
農業の果たす役割として、環境保全の指標を入れるべきことは私もずっと考えてきました。中山間地の水田の維持による土砂崩れや洪水の防止機能は、国土交通省の視点で見ると毎年10兆円の土木費に匹敵するという試算を聞いたことがあります。それだけでなく、地球環境にも目をやる指摘は大事だと思いました。
とにかく、勉強はすべきものです。チャンチャン。